登山靴を洗ったんだ

ひさしぶりに本業の忙しい日々が続いています。忙しいといっても泊まり込みではありませんし、どうということもないのですが、いいかげん髪の毛を切りたいのに床屋へ行く時間がなく、ぼさぼさのもさもさで会社に行きます。髭を剃り忘れたことに気づき、よけいに気持ちがもそもそします。帰り道、時期が時期であるだけに、電車には酔っ払いがあふれ、彼らのなかからは別のものもあふれ、それを眺めていると気持ちが落ちこんだりします。駅を出て暗い道をてくてく歩きながら彼女に電話をして、年末が近づくたびに酔っ払いの身体からでてきた何かが歩道橋に増えていくんだ何か理由があるのかな、などというと、彼女が笑いながら、何だか嫌な冬の風物詩だねえ、と言います。心が少し軽くなります。

それでも、忙しい忙しいといいつつ、きょうはお休みをもらい、年末締切の辞書項目を書くための資料をそろえたりしていました。そうして、夕方、登山靴を洗いました。登山靴を洗うと、なぜだかとても幸せです。体調はいまひとつですが、それでも履きなれた登山靴があれば、どこまでも歩いていくことができそうな気持になります。

今年は、論文を二本と論文もどきを一本、同人誌に誘われそれ向けに短編を二本(一本は没原稿になりましたが)、あとは単著の原稿をまとめはじめ、これから辞書原稿を書き、年末年始にはベンヤミンで一本書こうと思っているので、なかなかに良い年だったのではないかと思います。講義も、三年目にしてようやく少しは満足できる質になってきました。

けれども、肝心のことは、何もできませんでした。肝心のことって、何でしょうか。それは、毎日登山靴を洗うような生活です。いえもちろん言葉通りということではありませんけれど、でも、そういうことです。

論文に使う自分にとって美しい一文が思い浮かび、原稿の端にそれを書き込み、ひとりでにやにやしたりします。けれども、それがいったい何なのかといわれると、何でもないのです。まっとうな人間としてすべきまっとうなことなど、何もしませんでした。

夕食後、相棒と、クロマニヨンズを歌ったりします。腕をもぞもぞと動かして、ばばんばーん、と歌います。人気者チーム? 彼女がそう訊き、人気者チーム! とぼくが答えます。

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