FabCafe Tokyoにて開催されるアーロン・パーザナウスキー著『修理する権利――使いつづける自由へ』(西村伸泰訳、青土社、2025)の出版記念イベント告知が公開されています。
恐らくですが、研究会とかではなく一般向けのイベントとして「修理する権利」運動を扱う初めてのイベントではないかと思います。そもそも修理する権利は(法的、技術的な側面としては専門的にならざるを得ないところがあるにせよ)ぼくらそれぞれの日常生活の中で、ごく普通の営みとして息づいてこそ力を持ち長く続くものですので、こういう形でイベントを開催していただけるのはとてもありがたいことだと思います。特にぼくの場合は半分は技術者なので、研究会やらでわあわあやるのも良いのですがもっと自然に「直せるものは直したいじゃな~い」みたいに話題を共有できるのは嬉しいです。
ぼくはただ解題を書いただけですので売れ行きは詳しくは分かりませんが、本書、なかなか反応が良いようです。けれどもやっぱり分厚いし、ぱっと見だと法律絡みが多いので敷居が高いと思われてしまうかもしれません。そもそも「権利」って何か凄く大上段に構えた感じがするし、「修理」っていったってスマホをばらす技術力も知識もないし、と感じてしまうのも無理はありません。というかぼく自身がそうです。けれどもそんなことないよ、というのがぼくのトークテーマになります。本書の内容を、そこに書かれている具体例を辿りながら概観し、それをこの私の生の営みとして内面化すること、そしてそこからさらにローカライズしていく手がかりを探る……、みたいな内容になります。一般的な答えはないのですが、だからこそ「じゃあ自分にとって修理ってなんじゃろか」と考えるきっかけになってくれればと思っています。本筋はデジタルデバイスをどうするかなのですが、でもそのベースにぼくらの自然な生の営みが位置づけられていなかったら、どのみちそんな運動は一過性のもので終わってしまいますからね。
もう一人のスピーカーである中村健太郎さんのお話は非常に面白いです。今回のイベントだけでなく、それぞれがお家に持ち帰って「なるほどなぁ……」と時折思い出しては考えてみたりする、そういうふうにつながっていくのが真の意味で良いテーマであり思想の枠組みだとぼくは思います。で、彼のテーマのひとつは「Broken World Thinking」。もうこの時点で面白い。著者のパーザナウスキーさんは、修理はモノを完全に元の状態に戻せるものではない、そもそもそれはエントロピーが増大し続けるこの世界においては不可能なことだ、ということを指摘しています。箇所は少ないですがとても重要な観点です。そしてBroken World Thinkingはこの指摘とある面において――あくまである面においてですが――共鳴するものです。以下、中村さんご自身によるBroken World Thinkingの紹介です。コンパクトで分かりやすいのでぜひ。
「常に壊れ、修復されるもの」として技術の本質を捉え直すこと。これはよくよく考えてみると相当衝撃的なものですが、同時に深く納得できるものでもあります。ぼくはソフト屋さんとしてはまあまあな腕を持っているはずですが……たぶん……そうであってほしい……でもね、もうソフトなんてほんとうに壊れ続けていますからね! そしてこれを修理と結びつけていく。それは気候変動とも関連するし、テクノロジー抜きには語れない現代社会のお話にもつながります。今回のイベントだけで終わることのない、まさにいま必要とされている思想です。ぼく自身、中村さんのお話を聴くのが楽しみです。
中村さんは本書の書評も書いています。これも読みやすく、また重要なポイントを的確にまとめた良い書評なのでぜひお読みください。もしイベントに興味があり、でもまだ本は読んでいないんだよなあという方がいらしたら、これはとても良い事前準備になります。
会場となるFabCafe Tokyoさんは渋谷にあるお洒落なカフェ+FABの拠点です。とても面白そうなイベントを多々開催しているのでお勧め。そういえば初回のミーティングではじめてFabCafe Tokyoさんに行ったとき、ちょうど「節度ある食卓 #01 肉食再考」という企画展をしており関連書籍が幾冊も置いてあったのですが、そのなかに青土社さんの現代思想『特集=肉食主義を考える』が置いてありました。ここには数少ない研究仲間が原稿を寄せていたので、有朋自遠方來! などとちょっと嬉しかったです。
いずれにせよ、ぼくは最近もう駅に行くことさえ辛いのですが、もし皆さんが人間が大丈夫であれば――人間が大丈夫ってどういう意味だ――渋谷の! お洒落な! カフェ! であるにもかかわらず、意外や意外とても入りやすいところなのでぜひ覗いてみてください。
そうだなあ……あとおすすめポイントは……あ、チケットを見たら「ワンドリンク付き」と書いてある。これ怖いですねぇ。よくライブとかで(ライブなど恐ろしくて行ったこともないが)ワンドリンク付きとかってあるじゃないですか。もうその時点でダメです。まざまざと想像できる。会場に入っていって受付でチケットを出して、心の中で「ワンドリンク……」とか思っているけれど言い出せない。どこでそれをもらえるのかも分からない。受付でくれるのか? でもくれなかったな……なんてうじうじ考えている。みんながどこかでもらったドリンクを片手に音楽をノリノリで聴いているけれどぼくは手ぶらだ。もう音楽を聴くどころではない。ああ、つらい、つらい。僕はもうワンドリンクをのまないで餓えて死のう。いやその前にもうワンドリンクが僕を殺すだろう。
あとはまあ……ぼくのトークなんてアレですが、いや面白いですよ、面白くします、でも人間性がアレですからね……。それでもイエティなみの遭遇率ではあるかな……。だってイエティに遭えるとなったら皆さんも渋谷に行きますよね。ぼくは行かないですけれども。そもそもぼくは自分自身の写真っていうものが存在しませんでして、今回イベントページのために鳴く鳴く(イエティ化している)ポートレートを撮りました。っていうかパートナーに撮ってもらったのですが、もうやってらんねえやコンチクショウと思いながら「じゃあ太宰的にポーズ取っちゃう?」とか言って顎に手を当てたら手首を痛めました。
いまも痛いです。イベントご来場、お待ちしております。