自分のために嘘をついている訳ではない。

このひと月はなかなかに大変だった。恐らく、いままでの人生の中で最も長いひと月だっただろう。いや、まだすべてが終わった訳ではなく、大変なのはむしろこれからなのかもしれないが、それでも、少なくとも能動的にこちらからしなければならないことのピークは一段落したと言える。

体重計に乗って、去年の暮れに72kgあった体重が65kgになっていたのには驚いた。骨が太いのでそれほど目立たないが、身長から考えてもさすがにこれはちょっとまずい。ただどちらかと言えば、これは不眠と精神的なストレスの表れだろうから、まあゆっくりと、生活のペースを取り戻していくしかないとも思う。

いま、少し状況が落ち着いて、ほんの少しだけれど自分の時間を持てるようになった。けれどそうしてみると、やりたいことが何もないことに気づく。本屋に行って読みたい本を買い込むほどの気力もないし、遊びにでかけるような気分でもない。まあ、時間をみて近所を散歩をするくらいか。そうやって、少しずつ痛んだ魂を回復させるしかないのだろう。

本当は友人にいろいろ連絡をしなければならないのだけれど、いざメーラーを立ち上げると、途端に言葉がでなくなる。それはとても困ったことだ。普段はいくらでも適当な言葉があふれてくるけれど、さすがに今回は疲れた。

ところで、ぼくは結構嘘をつく。嘘については、かなりのプロフェッショナルだと言っても良いだろう。このひと月、いやもう数年になるのか、ぼくはある人に嘘をつき続けてきた。大丈夫、大丈夫、絶対に良くなるよ。もちろん、そんなはずはない。それはぼくだって、相手だって知っていること。けれども、それでも、嘘をつく。全身全霊を込めて、ぼくは嘘をつく。

それは決して、祈りなどというものではない。冗談ではない。存在しない神に祈るほど、ぼくは落ちぶれてはいない。ただ自分の技術を、人を騙す最低の技を信じて、ぼくは嘘をつく。だから相手に最後まで本当のことを言えなかったけれど、でも、後悔はない。真実が救いとなるのは、ごく一部の超人的な強さを持った人間にとってのみだ。

それにどのみち、そうやって嘘をつき続けると、ある瞬間、真実かどうかなど、どちらでも良くなる瞬間が訪れる。大丈夫。駄目だと思っているあなたの認識は間違っている。絶対に、大丈夫。ぼくが保証する。それは嘘とか願いとか祈りとか、そんな言葉では説明できない、ぼくの魂の叫びになる。

ぼくを知っている人間は、ぼくを嘘ばかり、口先ばかり、信用できない人間だと言う。それで結構。嘘つきと言いたければ言えば良い。ぼくは自分を恥じたことは一度もない。だいたいそれでは、ぼくを責める人間はいったい何をしたというのだろう。何もしなかったではないか。祈るだけでいいなら簡単だ。それで救われるのなら、いくらでも祈ってやろう。

ぼくは、そんなものは信じない。信じるのは、ただ自分の嘘だけ。この世界に救いはない。けれども、救いは必要だ。だから、ぼくは嘘をつく。自分の人生をかけて、存在しない救いのために嘘をつく。

大丈夫、大丈夫。絶対に大丈夫。いま最悪に思えても、必ず良くなるよ。ぼくが保証する。絶対に、大丈夫。

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