朋有り遠方より来る

今回は普段とは異なり、〝物語〟ではなくリアルのお話です。ぼくの数少ない研究仲間である上柿崇英さんが『メディオーム』の解説動画を作ってくださいました。そもそも誰かの単著の紹介、解説、解題、何でもよいですが、それを書くだけでも大変な労力になります。しかも自分の研究のためならともかく、別段、自分の得になるわけでもないのに多くの時間を割いてまでというのはなかなかありません。さらに動画までとなると、もはやこれはありがたいを超えて申し訳ないばかりです。

以下、前後編に別れていますが、ぼくの入り組んだ議論……というよりもどうもあまり共感を得られにくいらしい議論をとても簡潔かつ明快に紹介してくださっているので、ご覧いただけましたら幸いです。こういうの、ぼくはほんとうに苦手でして、自分の議論でさえ的確に最小構成で説明できません。だからまあ、この動画、実はぼく自身がいちばん助かるかもしれませんね。あと、同じチャンネル内にて上柿さんご自身の研究についての動画もありますので、それもぜひ。以下チャンネルへのリンク。

https://www.youtube.com/@kyojinnokata

生まれついてのいい加減な人間であるぼくとは異なり、上柿さんは自分自身でこの時代を、この世界を語れるような思想を作るぜということを真面目に真正面からやっている人です。これはいまの日本のアカデミズムではなかなか構造的に困難なことで、ぼくにはとてもできません。それでも、十年くらい前でしょうか、なぜか「単著をがんばって書こうの会」みたいな会合に誘ってもらい、そこから、当時の大阪府立大学(いまは大阪公立大学)の環境哲学・人間学研究所の客員研究員にもさせてもらいつつ、定期的に研究会をしたりしています。引きこもりなうえにアカデミズムにほとんど関心を失っているぼくが曲がりなりにも研究を続けているのは、こうやって声をかけてくれる研究仲間がいるからで、そういった意味でもぼくの博士課程時代は幸運に恵まれていたのだと改めて思います。ゼミを超えて、大学を超えて、数は少ないけれど得難い研究仲間を得ることができました。

せっかくなのでいくつかご紹介を。上柿さんのnote。環境哲学って何? というのがまとめられています。膨大な量ですが、面白いテーマが幾つもあります。

https://note.com/kyojinnokata

以下は同じく研究仲間である増田敬祐さんと上柿さんの双方の論考が載っている最新書籍(丸善出版)。「多様な未来世界を哲学で思考する新シリーズ「未来世界を哲学する」続々刊行!」とのことで、その記念すべき第一巻。第一章が上柿さん、最後の第四章が増田さんで、内容的にも対称性があり相補的で面白い。お勧めです。増田さんのタイトルは「環境にやさしい世界とは何か」。激しく皮肉が効いています。

https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/b306066.html

しかしこの企画、何で二人に声がかかって俺に声がかからないんだと嫉妬でギリギリしていたのですが、そもそも「若手・中堅の哲学思想研究者」からなる執筆陣ということで、そりゃぼくは無理です。いやまあ実力的にも業績的にも無理でしょと言われれば、それは……そうなんですが。でも正直うらやましいですね。嫉妬!

次は上柿さんの単著です。めちゃくちゃハードですが、類を見ない稀有な哲学書です。残念ながら版元の農林統計出版が廃業してしまっていますが、上柿さんのサイトに入手方法が書かれています。こちらもぜひぜひ。

https://schs.gendainingengaku.org/book1_detail.html

おお、何か今回は研究者っぽいですね。ついでに、「環境思想・教育研究」に載せた『〈自己完結社会〉の成立』の私の書評も。これは発行元の許可を得て公開しているものです。

https://note.com/kyojinnokata/n/n784b403b18f9

ぼく自身は、古い時代の文学によって形作られたヒューマニズムを魂の根っこ部分に刻み込んでいる人間です。そうして常に、存在しない神と戦わねばなどと訳の分からないことを言っている。そして何よりも、とにかくいい加減で冗談を言っていないと生きていけません。そういった点では、剛速球一本勝負みたいな上柿さんとはぜんぜん研究スタイルは異なっているのでしょう。それでも、近代的な自己概念に対する批判意識は深く共有していますし、何よりも人間が生きているあらゆる次元における有限性(そしてそれゆえにこそ生じる無限性)に対する感覚は、根本部分における共有項です。

上柿さんの『〈自己完結社会〉の成立』もぼくの『メディオーム』も、そういった議論のなかから生まれたひとつの成果です。とはいえそれはもう終わった第一期。いまは次の単著に向けてそれぞれ進み始めているところ。また何か良いものを作れればと願っています。あ、間違えました。良いものが出てきますので、ご期待ください。