夜中にカメが訪ねてきて「あのとき助け(原稿はここで終わっている)

近所の大病院の敷地内にカメがたくさんいる池があることを以前に発見し、ときおりふたりで散歩に行くようになりました。天気の良い日には100匹を少し切るくらいのカメが日向ぼっこをしています。池の中央にある石段で組まれた島のようなところがあるのですが、この前行ってみるとその隙間に1匹のカメが頭を下に向けてはまり込んでいました。これはどうしたことかと思ったのですが、いくらなんでも自分で脱出できるだろうと思い――なにしろそれまで一年近く観察していて、嵌りっぱなしのカメなど見たことがなかったので――その日は帰りました。

しかし心配になって翌日もまた確認しにいってみると、やはり嵌ったままです。ときおり後ろ脚をじた……ばた……と動かしています。もうこれは明らかに自力脱出が無理な状況ですので、ぼくらはどうするかを相談しました。けれどもたまたま通りかかった(明らかにその病院の関係者である)おじさんに声をかけ、「カメが……! カメが……!」と訴えたところ、最初は困惑していたそのおじさんもぼくらの目が本気であることに気づき、こいつら放っておいたらやばいと思ったのか、力を貸してくれることになりました。というかもうその方がほとんど全部やってくれたのですが、使っていないポールを二本とガムテープを持ってきて、その二本をつないで長くしてくれます。ぼくはそれを借りて池の柵から身を乗り出すとえいえいと石段を突き、ようやくカメはぽちゃんと水面下に戻っていきました。

何だかいろいろなことがあったような気がしますが、何もかもが既に遠い過去のお話になっています。あ、金魚が卵を産んでびっくりしました。どえらい数。生命ってやっぱり爆発しますよね。

それはそれとして次の本に向けて、といっても出版の目途などないのですが、原稿を書き始めています。こんな感じの内容だよ、と誰に言ってもたいてい「?」となりますが、良い本になる気がしています。この、気がするというのがいちばん大事で、これがないとぼくの場合はどうにも書き始めようがありません。と同時に気がするというときには頭のどこかに全体像が既にぼんやり見えていて、これが見えてしまうと何となく安心して文字を書く気にならなくなります。どっちにしろ書けない! いえでも本当に名著になる予感があります。嘘じゃなく。

とはいえまずはいまの本が売れなければお話になりません。『メディオーム』、ありがたいことにふたたび書評で取り上げていただけました。美学/芸術学がご専門の増田展大氏によるもので、2022年6月4日号の図書新聞に掲載されています。残念ながら有料版ですが以下からpdfで購入できます。

https://dokushojin.stores.jp/items/628eec5c9a70625d59e6750d

「「ポストヒューマンの倫理」という難題へと向けられた果敢な取り組み」というタイトルで、本書の問題点も含め極めて的確な評を書いてくださっています。増田氏はブライドッティの『ポストヒューマン』の翻訳者のおひとりでもあり、『ポストヒューマン』は本書でも引用している重要な著作なので、その翻訳者からの鋭い批判は格段に嬉しいことです。ありがたや!

きょうはお休みの日なので、朝からたくさん洗濯をしました。いよいよ本をしまう場所がなくなってきたので、冬服をどこかに片づけてそこに本をしまうつもりです。といっても、ぼくはほとんど服を持っていません。ジーンズも靴も一着と一足しかありません。そういうと社会人としての常識を云々と言われますが、きみ、常識のある人間がこんな生き方に行きついたりするはずもないだろう、と虚空に向かって語りつつ、洗濯物を干したら原稿を書こうと思っています。