[アーカイブ]世界をハッピーエンドで終わらせるために(2007/05/06)

以下の文中で6630といっているのはVodafone 702NKのことです。こういう尖ったデザインの携帯電話ってなくなりましたよね。かわいくてとても気に入っていました。

ふと、6630(というより702NKなのだが、電話として使っていないぼくからすればやはり6630と言った方がしっくりくる)にゲームを入れてみた。自分の動かすネズミが、ハエ、てんとう虫、ゴキブリ、蛙、その他正体不明の生き物を避けながら迷路を走り回ってチーズを集めるという、他愛もないものだ。

普段、ぼくはほとんどまったくと言って良いほどゲームをやらない。珍しくやってみてその理由を思い出した。敵に捕まると、ネズミは羽の生えた(ネズミの) 天使になって、昇天してしまう。その瞬間、とても胸が痛むのだ。元来、落書きで描いた動物さえ消せなくなってしまうようなやっかいな性格をしているので、たかがゲームと言ってネズミを死なせたままにはできなくなってしまう。

そこで、無駄に時間を費やし、ようやく最初の一匹で全面クリアするまで腕を上げた。クリアしてから、即座にゲームはアンインストールした。やれやれ、何をやっているんだか! この時間を勉強に当てれば、ささやかだけれど、まだしも世界の役に立つ。

けれども、これはこれで良い経験になった。

操作を誤ってネズミが敵に捕まる。昇天する前に、すばやくゲームをリセットする。そうして、失敗した歴史を書き換えてしまう。ハッピーエンドで終わるまで、歴史を上書きしていく。

実際の世界ではハッピーエンドなどあり得ない。どれだけ身体を鍛え、知識を蓄え、資金力を得たところで、日々世界中で殺されていく無数の人々を救うことなどできはしない。それでも、ひとが一生懸命勉強をし、社会で働くとすれば、その根幹には、例え負け戦であろうとも、そのような現実を何とかしたいと願う心があるからだろう。

とは言え、やはりそれは負け戦だ。こうしている一瞬一瞬、ぼくには想像もつかないような苦悩と苦痛の中で、多くの人々が死んでいく。それはやっぱり、考えるだにしんどいことだ。

だからせめて、小さなゲームの中でくらい、ネズミを一匹も殺さずに世界を終わりに導こうとする。自己満足? もちろん、その通り。それでもそんな、嘘でもささやかな勝利が、ほんの少しだけれどぼくに力を与えてくれる。そのほんの少しの力を頼りに、明日また一歩、がんばることができる。