[アーカイブ]万歩計を買うのです(2009/02/25)

昨日は写真を撮ろうと思い、仕事帰りに八景島にかかる橋まで歩いた。ただでさえ雨も降っているし、この時間になると大通りであるにも関わらず辺りは無人になる。オレンジ色の街灯だけが煌々と濡れた路面を照らしていて、少しだけ不気味で幻想的。ちょっと逆側も撮ろうと思い、いったん橋を戻り、改めて反対側の歩道に渡ってからふたたび八景島へ向かう。

ふと気づくと、八景島の方から数人の人が傘をさして歩いてくる。他に誰も居ない雨の夜の橋の上で、静かだけれど明るい橋の向こうから傘に隠れた何者かが近づいてくるというのは、けっこう薄気味が悪い光景だ。無論、彼らは単に八景島で遊んだ帰りの人々でしかなく、向こうからすれば傘もなしに蹲って写真を撮っているぼくのほうが不気味だろう。しかたがないので、すごすごと三脚をたたんで撤収した。

不気味と言えば、その後海岸(護岸工事をされているからコンクリしかない)に出て夜の海を撮ったのだが、昨晩はずいぶんと霧が出ていて、かなり気味が悪かった。ぼくは一般的な意味での恐怖心というのはあまり感じない性質だけれども、自然は怖い。畏怖、というやつばかりは鍛錬だけでは消せないし、また消すべきものでもない。夜の海を覆う深い靄は、それだけで恐ろしい。そんなとき、父にもっと海の話を聞いても良かったな、とふと思ったりする。きっとぼくの知らない、想像もしない世界を彼は見ていたのだろう。

ちょっとしんみりしてしまった。明るい話。恐怖心に関して言うとぼくは昔高所恐怖症で、だいたい地面より1メートルくらい高いところに登るともう怖かった。小学校のころだと、しばしば壁を攀じ登って遊んだりした経験がみなさんの多くにもあると思う。負けん気が強かったぼくも、よじよじと壁に張りついて登っていた。でも途中で「あ、俺高いところにいる」と気づいてしまうともうだめで、夏の終わりの蝉のように必死に壁に張りついたまま身動きできなくなり、最後にぽとりと落ちた。

けれど大学時代、相棒と知り合って高所恐怖症など吹き飛んだ。彼女は何しろ高いところが平気で、ちょっと信じられないようなところを平気で歩いたりする。それ道じゃなくて縁じゃん! とかぼくは内心叫ぶのだが、叫んだ衝撃で彼女が落ちるとまずいのでじっとこらえる。で、彼女が落ちたら自分も一緒に落ちて、少なくとも抱きかかえて自分が下になれば彼女だけは助かるだろうと思って、必死に(本当に必死になって)へっぴり腰で相棒の後ろについていった。これよく考えると、バランス感覚の悪いぼくが落ちる可能性のほうがよほど高いですね。まあでもそんなこんなで、いつの間にか高所恐怖症は克服していた。「ヤッチマイナー!」と白目を剥いて絶叫するのっぽさんのどアップで始まる「できるもんならやってみな?」で育った世代であるぼくにとってできないことなどこの世に何もない。あるいはまた、愛はすべてを乗り越えると言えば格好が良いかもしれないけれど、要するにこれは、猫を好きになってしまった犬の悲喜劇でしかないのかもしれない。

しまった、そんな話をしたいのではなくて、万歩計の話をしたかったのです。ぼくは散歩が趣味で、まあ純粋に歩くだけでも楽しいけれど、憂鬱なことや考えなければならないことがあるときも歩く。歩いていると頭がクリアになっていく気がする。最近は楽しいから歩くし、考えるべきことも山ほどあってやはり歩く。そんなこんなでうろうろ歩いているのですが、ちょっと歩数を計りたくなりました。

そしてぼくは歩数を数えるのも趣味でして(なんと寂しい子だ)、駅から家までとかあちこちの階段とか、そういった数を数える。数を数えるのチョー楽しい! 修士時代は研究室が15階にあって、ぼくは階段で上っていたのだけれどその段数はいまでも覚えている。階段を使う人なんてほとんどいないから、数えるのに飽きたらごっこ遊びもできる。犯人を追っかける刑事ごっことか、ゾンビに追われる一般市民ごっことか。何かこう書くと本当に寂しい子だ。

それはともかく、外を歩き回ると言ったときにぼくがまず思い浮かべるのは昔プレイステーションであった「太陽のしっぽ」というゲームだ。原始人になって、ひたすら狩をしたり海に潜ったりお菓子を拾ったり木を倒したり突然寝たりしながら大地を闊歩する。そういえば演技と呼ばれるもの全体が苦手なぼくですが、ひとつだけ得意だと思っていることがあって、太陽のしっぽで原始人が動物に襲われるときに上げる「うっ! うっ!」という呻き声、正直言ってぼく以上にこの真似がうまい人間はこの地球には存在しない。迫真の演技。でも誰にも伝わらないのがちょっと寂しい。

歩くことに話を戻せば、最近歩く距離が増えているし、ちょっと思いついたのだけれど、その歩数を記録してグラフ化したら、自分の精神状態を表す何らかのバロメータになるのではないだろうか。それに相棒も少し前に万歩計が欲しいとか言っていた気がする。だからきょうは仕事帰りにヨドバシか無印で万歩計を購入します。この二日間写真ばかりアップしていたのでぼくの内なる「字を書かせろお化け」が字を書かせろと泣き叫んでいましたが、さて書かせてみればこんな結果。無念と落胆を抱えたまま仕事に戻ります。それではみなさん、さようなら。