ある日のshopping expedition

きょうはとても不快なことがあった。いまもまだ気分が冴えない。ついでに頭痛も始まった。きょうは痛み止めを飲まないと決めたので、正直、けっこうつらい。けれども、きょうのこのエントリーは徹底的にばかげたことを書くと決めたのです。以前、あるところでそう約束した。気がする。物忘れの激しいメロスですが、とにかくセリヌンティウスとの約束を果たさねばならぬ。メロスはそんな気が漠然としている。友の元へ行かねばならぬ気がする! というわけでばかげたお話です。でもちょっと悲しいお話です。

先日、アートフェア東京というイベントが東京の何とかいうところでありました。きょうはですね、何かを調べて書くということをしないつもりなのです。ですからイベントの名前がアートフェア東京かどうかもよく覚えていないのですが、まあいいでしょう。父が生前つき合いのあった画廊があり、そこから招待状が来たのです。というと何やらよほどハイソサエティな感じがしますが、そんなことはありません。招待状だって前売りで1,200円です。もちろんせっかくいただいたものに文句を言っているわけではなく、要するに気軽に行けるイベントだよ、ということですね。この画廊に関しては少し面白いお話があるので、それは五月の終りか六月の初めころにブログに書くと思うのですが、まあいまはアートフェア東京です。いいですね、こういう文体でブログを書くのひさしぶり。

で、招待状は一枚だったので(繰り返しますが、文句を言っているのではありません。この一枚というところにも実は意味があるのです)、もう一枚を前売りで購入し、相棒とふたりで行くことにしました。何か良い絵でもあれば彼女の博士号取得祝いに買おうかしらなどとブルジョアなことを考えていたのですが、結論から言えばとんでもない。そうとうにアレなイベントでした。玉石混交ならまだ良いのですが、屑が99、石が 0.9、残りの0.1が玉という感じです。お前にそんなことを断言する権利があるのかと言われれば、もちろんあります。そしてそうではない、すべては玉だという権利も、もちろんきみにはある。

けれどもあれですね、モスクからシナゴーグまで、どんなところにでも(というには偏りがありすぎるけれど)とけこんで目立たない特殊能力を持っているといわれる私ですが、同時にどんな服を着てもぼろに見えるという特殊能力の持ち主でもあり、この日もひさしぶりの彼女とのデートだよへへへ、などと思いつつ決めた格好をして行ったのですが、ガラスに映った自分を見ると、やはり途轍もなくぼろっちく見える。なあに褌一丁でも心は錦さ、などと警察に捕まりそうなことを考えながら彼女と会い、少し散歩をしてから会場へ。

思い出した、会場はたしか東京国際フォーラムとかいうところでした。前にアグリカルチャー何とか、というイベントで行ったことがある。で、ビルの中に入ると、地下のフロアでやっているアートフェアを見下ろすことができます。見おろして、さっそくぼくと彼女はげんなりしました。ちょっとこれ、アートという感じではない。フェアという感じです。だからアートフェアなんですけれども、気持ち的にはアートが6ポで、フェアが64ポくらい。――でもさ、とぼくは彼女に話しかけます。――こんなぼろを着たやつに何かを売りつけようとする画商がいれば、そいつの目は節穴だよね! そしてははは、と乾いた笑いをもらします。ここで、そんなことないよ、きみは世界でいちばん格好良いよ、などという返事を期待しつつ、もう十数年が過ぎようとしているのですが、案の定クールに――そうね、節穴ね、と返され、とぼとぼと階段を降りて会場へと向います。

まずは招待状をくれた画廊のブースへ行って挨拶。少しお話をして、あとは自由に会場を巡ります。最初に申し上げたとおり、大半が屑でした。こんな書き方をすると不快になる方もいらっしゃるかもしれませんが、けれど、自分にとって駄目なものはやはり駄目です。馴れ合いをしても仕方ないし、作っている人間が本当に誇りをもってやっているなら、ぼくの書くことなど気にもとめないでしょう。ぼくもまた、自分の美的なセンスに確信を持っているので、相手が何を言おうと気にはならない。友だちごっこをしているのではないのだから。ただそれはあくまでぼくにとっての基準であって、他のひとからみて紛れもなく芸術であるのなら、それはそれでかまわない。

おっと、気力が萎えて話が暗くなってきましたね。大丈夫です。ぼくらはさっさとトンズラしました。その日はもうひとつ目的があったのです。彼女のリュックを買うのです。これから毎週調査のために山へ行く彼女に、ぼろぼろになってしまった古いリュックの代わりに新しいリュックを買おうというのです。頭痛がひどいために文章が乱れ始めているのですが大丈夫です。

最初は新宿の、あれ何でしたっけ、南口の登山用品店。リ、リ、リ、リー、リー、リー! それじゃ『ピンチランナー調書』だ。あ、エルブレスだっけ。全然リ関係ないし。あそこに行きました。で、ちょうどよいものがなかったので中央線で吉祥寺へ行き、丸井の裏手にある登山靴とかも売っている、あれ何でしたっけ、リ、リ、リ、まあいいや、とにかくふたつほど巡って、ようやくリュックを買えました。ぼくは本当に人ごみが苦手で、休日の東京~新宿~吉祥寺とまわるなど正気の沙汰とは思えませぬ、という感じなのですが、この日はがんばった。ひとは愛ゆえに自らの弱点を克服するのです。

吉祥寺と言えば、丸井のすぐ近くにぼくの旧友が住んでいました。さすがにいまはもういないと思うのですが、倫敦日本人学校で一緒だった子です。ぼくにとって初めて親友と呼べる、変わり者の男の子でした。何しろ頭が切れる子だった。あれほど切れる子は、いまでもぼくは、他に知りません。日本に帰ってきてから一度だけ会ったけれど、相変わらずの変わり者ぶりがおかしかった。元気に暮らしているでしょうか。元気に暮らしていると良いですね。

ぼくと彼女は、もうへとへとになって家に帰りました。手をつないでいても、相手の手に力がないのが分ります。でも、暖かくて、とても幸せです。アートフェアは莫迦みたいだったし、せっかく買ったリュックだって、どうせすぐにぼろぼろになります。けれども、大切な相手と過ごした記憶というのは決して消えません。だから、とても疲れたけれど、この日の買い物遠征は良い記憶になるだろうと、ぼくは思っているのです。

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