女子大に侵入したときに、「(なにあの人)寒そう(なんだけど、超キモイ、地獄へ堕ちろ!)」という声が聴こえてきました。博士論文を書いていたとき以来の軽い難聴が治らない私ですが、虫たちの声と陰口だけは世界の裏側からでも聴き取れます。幻聴。けれども私レベルになると、道行く人びとが私を見てにやにや笑っても、(1)これは私の妄想である。(2)現実に笑われていたとしても、彼ら/彼女らは私に職をくれるわけではないのでどうでもいい。(3)どうせみんな最後には死ぬんだ。という三択ボタンをランダムに押すだけなので、大丈夫です。最近、あちこちで「大丈夫ではない」という指摘を受けるようになっているのですが、私の超強力な対洗脳回路は他人の意見などに影響を受けません。
けれども、やはり、外に出るのは怖ろしい。一日外に出ると、だいたい三日分の活動エネルギーを消費します。あと街は臭い。びっくりするくらい、東京って臭いですよね。地面の下で川が死んでいる。死んだ水の上にコンクリを張って首都とか言って、莫迦みたいですね。何だかやっぱり、ちょっと心が疲れているのかもしれません。そんなときには座禅です。明日の講義のレジュメをまったく作っていないのですが、一日座禅を組んで、どうやらようやく元気が出てきました。このなけなしの元気をブログを書くことに費やし、もう明日の講義のことなど忘れて寝てしまいましょう。クラウドリーフさんは土壇場でなければ動き出さない人間です。きっと明日、講義の2、3時間前には立派なレジュメができていることでしょう。
けれども、「寒そう、地獄へ堕ちろ!」という女子大生のありがたいお言葉が耳に残っています。自分の心の平安のためにも、暖かそうな恰好をしなければなりません。そんなこんなで、仕事の帰りに無印良品に寄りました。無印良品というと、ずっと昔、でもないか、国分寺に無印のアウトレットがあり、そこでいろいろ買った記憶があります。そこで「無印は安い」という印象が刻まれてしまい、いまでも服というと無印に行ってしまうことが多いのです。でも客観的に言って、無印、高いし、サイズは小さいし、実はあんまり自分の趣味でもない。でも、いったん行動パターンができてしまうと、この男、だいたい死んでも変えない。
パーカーが欲しかったのです。と、いきなり動機を自白するかのような口調になるのですが、何かだぶだぶのパーカーを意図的に気崩しているのって、恰好良いじゃないですか。年甲斐もなくそう思ったのです。本当はカーディガンを買いたかったのですが、無印のカーディガンを見たら、一万いくらかとかでした。いくら何でも、ちょっと高い。哲学をやっている非正規雇用の人間には分不相応です。昆布でも巻いておけばよい。そうして時折しゃぶれば良い。しかしそうも言っていられないので、うろうろ探していたら、パーカーなるものがありました。唐突に、そういえば俺、パーカー欲しかったんだよね、ということを思い出します。以前、彼女が、ちょうどぼくと同じくらいの体格の友人から、古着のパーカーをもらったことがありました。これがとても良く似合って、可愛いのです。
そうだ、俺もパーカーを着れば、ああいうふうに可愛くなるんだ。クラウドリーフさんのよく分からない思考と指向と嗜好により、パーカーをいつか手に入れるんだ、ということが確定されました。いま、そのときが来たのです。しかもXLサイズがある。という訳で買いました。
お家に帰り、さっそくパーカーを着てみます。ぴっちぴちでした。そう、無印のXLは、彼には小さいのです。いつも騙され、そしていつもそれを忘れる。彼はなで肩なのですが、肩幅自体はあります。ですので、普通のXLでは小さいし、ものすごく型崩れして恰好悪くなる。意図しない着崩し。まるで変質者のようだね。彼女が菩薩のような笑みでそうぼくに言います。でも暖かいし。一生懸命反論しますが、正直、それほど暖かい訳でもない。だって小さくて、少し伸びをするとヘソが出るんだもの。え、これほんとうにXLなの? いや、無印は好きなんですけれどもね。ステープラーの針も、無印のは音が酷いし、綴じたときの感触も気色悪い。いやほんとう、無印は好きなんですよ。嘘じゃなくて。
ヘイメーン、とか言って講義をしようかと思っていたのです。もう地獄へ堕ちろとは言わせない(誰も言っていない)。でも、これはやはり、子供服を着た変質者にしか見えません。教壇の上に立つなんて糞だ、講義なんて普段着だろ、フランス革命! と思っているクラウドリーフさんでも、さすがにこれはいけない、ということくらいは理解できます。ヘイメーン、リベルテ、エガリテ、フラテルニテ!
仕方がないので、このパーカー、いまは寝巻になっています。フードを被れば、ほら、もう雑音は、何も聴こえない。