このひと月で30冊ほど本が増えてしまって、もう段ボールもいっぱいになってしまったし、どうしようかな、と考え中です。きょうは一生懸命いらなくなったプリント類をシュレッダーにかけ、少しでもスペースを空けようと奮闘していました。明日の講義のレジュメをまだ何も作っていないのですが、大丈夫でしょうか。現実逃避にお茶をいれ、ぼんやり父の本棚を眺めていると、「フンスフンス語入門」という本がありました。父は仕事柄英語は堪能でしたが(残念ながら私にはまったく引き継がれなかった才能です)、もともと語学が好きだったのでしょう、何かというと、新しい語学の教科書を購入していたのを覚えています。それにしてもフンスフンス語って何だろう、と思って見直すと、何ということはない、ただのフランス語でした。
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やはり頭痛薬を飲んでいると、というよりも薬でぼんやりした向こうで脳が浮腫んでムクムクしていると、どうにも動作が荒くなります。先だって、職場で巡回がありました。何の巡回か実はよく分かっていないのですが、とにかく、これが来るときには自分たちの部屋を片づけなければなりません。プログラマーとして研究開発室に所属しているというと、何やらクリーンなイメージがありますが、私の場合は、机の周りがとんでもない状況になっているのが常態です。壁中にプリントアウトしたメモや設計図、時刻表が貼られ(時刻表は大事です。私は人の名前や時間を覚えられないので、常にこれを確認しておかないと、終電を逃すことになります)、机の上にもPCの上にも、隣の上司の机の上にさえ私の書類が山積みになっています。怒られると「コレハ、紙ノ養殖デス。エコ、アナタ、反対?」と片言うわごとで答えます。
ともあれいまは巡回です。たいていは予め日時が知らされるのですが、そのときはお知らせがなく、突然の襲来となりました。「巡回が来るぞー!」という声が届き、私たちは皆、慌てて机の上をばたばた整理し始めます。飲みかけのコーヒーのペットボトルがあったので、それも鞄に突っ込みます。やがて巡回が終わり、またデバッグに戻りました。そうして、その日の帰り、PCもシャットダウンし、さて帰るかと思い鞄を持ち上げると、タプンタプン、ピチャンピチャンと音がして、鞄の底から茶色い液が床に滴ります。そう、ペットボトルのふたを緩く締めたまま突っ込んでしまい、そのまま忘れていたので、鞄のなかにコーヒーが溢れてしまったのでした。その日は読みかけのハードカバーを一冊と、それがもうすぐ読み終わりそうだったので別のハードカバーを一冊、鞄に入れていました。何ということでしょう。何しろ人間の器が小さいので、こういうときはほんとうにがっくりします。本茶色い! ホンチャイロイ!
けれどもすぐに諦め、ついでに巻き添えを喰らった書類も、不要なものは適当に拭ってシュレッダーにかけることにしました。どうもこの男、家でも会社でもシュレッダーばかりかけている気がする。そうして捨てるべき書類を選別していると、何やら、昔書いた物語や論文、何かの謎メモが山ほど発掘されるのです。これまた何ということでしょう。どうやら「俺、ばりばりに仕事できるからさぁ」と思いつつ周囲に積み上げていた書類、大半が私物のようです。とにもかくにもシュレッダーにかけますが、このシュレッダー、あまり性能が良くない。縦書きで書いた文章、フォーマットによってはほぼまるまる一行読めてしまいます。
ゃあ蜂やら石臼やら栗やらが出てくるが、あんなのは皆嘘っぱちじゃ。石臼が動けるわけあるまいこのたわけが。
しろ大地を埋め尽くすほどに集まった。エテ公にすれば敵の軍勢ウンコのごとく候というわけじゃなほっほっほ。
奴は泣いて詫びおったがもう遅い。奴の家も畑も、みーんなわしらの臭いが染みついて、もう誰も住めなくなっ
エテ公は泣く泣く都会に出てサラリーマンになった。今では幸せな家庭を築いているそうな。蟹の母君の大切に
りの臭さに驚いて、死んだ母君が甦ったのだからまずはめでたしめでたしと言うべきじゃろう。そういうわけで
私はそっと、それらの断片をゴミ袋の奥に突っ込みます。
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本と書類とカメラくらいしか持ち物のない私ですが(服はない、生まれたままの姿だ。ヴィーナスと言っても過言ではないだろう)、それでも、本気で引っ越すとなると、なかなか大変です。本当に書くべき論文のための資料以外はしばらく買わずに、不要なものを整理していく生活を、しばらく続けなければなりません。