先日相棒に「レンコン買ってきてちょうだい」と言われまして、ふんふん鼻歌を歌いながら大学帰りにスーパーに寄ったのです。ところが野菜売り場をいくらうろうろしても、レンコンのレの字も見つかりません。おかしいなあ、おかしいなあと思っていたら、なにやらレンコンそっくりの野菜が売っています。おやおや、と思ったのですが、プレートを見ると「ハス」と書いてありました。そっか、これレンコンじゃないんだ、間違えて買わないで良かった良かった、俺、買い物上手。などと自画自賛しながら彼女の家に行き、「レンコン売っていなかったよ、でもハスっていうそっくりな野菜が売っていたよ^^」と報告をしたところ、なぜかとても哀れむような目で見られました。
っていうかですね、ぼくだって生きるか死ぬかという状況で、全身全霊を込めて考えれば、「レンコン」が「蓮根」で「ハス」が「蓮」だということくらいは分るのです。たぶん。でもいきなり「ハス」とか書かれたら混乱するじゃないですか。しないか。大根買ってきてと言われて八百屋に行ったら「オオ」とか書かれた野菜しかない、けどどう見ても大根そっくりとか、そんな話ですよ。ハスが蓮根って、そのくらい途轍もないことですよ。と力説したのですが、誰も同意してくれなかったのです。
最近は頭痛がひどくて、ずっと薬を飲んでいます。もちろん市販薬を用量を守って飲んでいるのですが、やはり相当にぼんやりしてしまいます。ぼんやりしているのは自分でも分っているので、安全第一でのんびりゆっくり歩くようにしているのですが、それでもあちこちにぶつかってしまいます。数日前は車どめの金属製の柵に激突してしまい、しばらく足を引きずっていました。とはいえ薬のせいで痛みもあまり感じず、あとで足がカラフルになっているのを見てぎょっとしたりします。薬でぼんやりというのはけっこう怖いことで、これは一昨日でしたでしょうか、お風呂に入ってひさしぶりに息を止めてみようと思ったのです。まあ最近は走ってもいないし、せいぜい一分も止めていられれば良いほうかな、などと思いながら鼻をつまんで水に潜りました。お風呂の壁にかけてある時計の秒針の音に耳を澄ませ、時間を計ります。三十秒、余裕です。一分、まだまだ平気。一分三十秒、あれ、こんなに楽で良いのかな。二分、いまだにまったく苦しくありません。二分三十秒……、さすがにこの辺りでおかしいと思い始めました。これ、単に薬でぼんやりしているせいで、苦しいと感じないだけなんじゃないかしら。慌てて水面下から顔を上げ、息を吸いました。あのまま潜っていたら、そのままインスマウスに還ってしまっていたかもしれません。危ない危ない。
とまあ、あまりぱっとしない日常ですが、けれどそんなぼくにも良いことがありました。この前仕事の帰りに墓地の脇を歩いていて、ふと空を見上げたら生まれて初めてというくらいに眩しく強い流れ星を見たのです。はい、良かったことのお話おしまい。
昨日はひさしぶりの休日で、午前中は家で雑事を片づけていたのですが、午後は新宿御苑で写真を撮りました。御苑は芝生でのんびりも良いですが、ぼくは外周をぐるりと散歩するのが好きです。閉園後は近くの喫茶店で論文の手直しをして、夜、相棒と落ち合って登山用品店に行きました。キャンプ用品みたいなところで、見てみてヒル避けの薬があるよーぼく買おうかな、などと言いつつ彼女に見せようとしたら、薬のビンにヒルのリアルな絵が描いてあって、思わず「ニャヒー!」などと変な声をあげてしまいました。夕食のあと、タイムズスクエア近くでクリスマスの飾りつけをしている工事の人たちを眺めながらふたりでぼんやり。十年前もそうだったように、きっと十年後も、ぼくらはこうやってふたりでぼんやりしているような気がしました。そう思えることはきっと、とても幸福なことなのでしょう。やがて電飾の一部に光が点るのを見てから、ふたりで帰りました。
そんな感じで、日々を過ごしています。