身に余る光栄です

彼女にカップラーメン禁止令を出されました。確かに健康にはあまり良くはないでしょう。とはいえ、コンビニのおにぎりが良いとも思えませんし、結局、自分でお弁当を作るしか選択肢がなくなってしまいます。朝、ぱぱっと作れるものとなるとサンドイッチくらいしかありませんが、素材をきちんと選べば身体に悪いということもないでしょう。無論、サンドイッチといえども奥は深く、パンの焼き方一つをとっても出来不出来の差がだいぶ出ます。それでも、手さえかければ、毎回それなりの質のものは作れます。当たり前だろうと思われるかもしれませんが、他の料理の場合は、しばしばとんでもない大失敗をします。

特に米は酷い。米を研ぐのが好きなのでそこはまるで何かの妖怪であるかのように丁寧に研ぐのですが、研いで水を切ったまま後で水を足すつもりで忘れてしまいそのまま炊飯器で炊いてしまったり、逆に、水に漬けている時間がないため大量に水を張り、「加圧式高速浸透法だ!」などと叫んでうっかりそのまま炊いてしまいお粥状になったり、いろいろです。まあだいたい塩でもふっときゃ喰える!

あとは目玉焼きですね。目玉焼きも得意。それからあれも作れますね、フレンチトースト。お前はクレイマー・クレイマーのダスティン・ホフマンか、という気もしますが、参ったなあ、当時ジャスティン・ヘンリーとだいぶ近い年齢だったぼくが、いまでは当時のダスティン・ホフマンと同じような年ですよ。そりゃフレンチトーストだって作れるはずです。ベチャ!

いずれにせよ、しばらくは無理のない範囲でお弁当ライフにしようと思います。彼女と過ごすようになってから、料理の手伝いをだいぶするようになったので、キャベツとレタスの違いも分からない、ハスを買っておいでと言われて蓮根を前にしても「ハスじゃねえし」と呟いて帰ってきた彼ですが(しかし彼はPh.D(Agriculture)持ちなのだ、日本のアカデミズムは大丈夫なのだろうか)、最近は少しばかり料理スキルが上がっています。テフロン加工のフライパンをえいやと振って、ホットケーキだって見事にひっくり返すことができます。フレンチトーストもひっくり返す。ベチャ!

引きこもり気味な彼も、彼女と楽しくご飯を食べるためであれば、何とスーパーにあるような肉の対面販売にさえ果敢に立ち向かい、「トリモモニクニマイ!」とか必死に叫びます。「二枚?」「ニマイ!」ハートフルヒューマンコメディ。でも実際はハートレスゾンビコメディ。お肉屋さんのお姉さんと会話することへの恐怖に、目は既にあり得ないほど落ち窪んでいます。それでも、石の下にも三年(陽ざしの下に出たら死ぬ)、お弁当を作れと言われても失神しないくらいには成長しました。

もともと食べることにはほとんど関心のなかった彼です。もう四半世紀近く昔、いやそれは大げさか、ともかく、大学の帰りに彼女とコンビニで肉まんを買い、近くの公園でもしゃもしゃ食べていたころから、食べるもの、食べることそのものよりも、誰と食べるかにしか興味はありませんでした。いまは彼女と一緒に食べるのであれば、彼女は料理が好きなひとなので一緒に作りますが、根本的には、やはり食べ物そのものへの関心はほとんどないままのような気もします。だけれどそんなことはどうでも良いのです。彼女と料理すること、食べる時間をともにすること、その全体が楽しい。ぼくのような社会不適応者には過ぎた人生。どのみち100年200年などすぐに終わる一瞬だとしても、そうである限りはその時間を大切にしなければなりません。

そんなこんなで、これからしばらくはハートフル弁当ライフを送るのです。ベチャ!

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