部活からの帰り道

部活からの帰り道、自転車を飛ばしていると、砂浜に佇んでいる女性に目が留まる。視力だけは良いからすぐに誰だか分った。軽くドリフトを決め自転車を降り、砂を踏んで彼女の傍に歩いていく。こんにちは。彼女は振り向き、軽く笑みを浮かべる。こんにちは。部活はもう終り? 彼女がうちの旅館に泊まってまだ三日だったけれど、気さくな人柄で、夏休み中家業の手伝いに駆り出されていたぼくともすぐに打ち解けてくれた。ぼくはといえば、少し年上の美しい女性に惹かれていなかったといえば嘘になる。彼女は傍らに旅行鞄を置いていた。もうお帰りですか? うん、次のバスが来たら、それに乗るつもり。少し胸が痛み、誤魔化すように明るく訊ねた。何を見ていたんですか? 彼女は寂しげに微笑み、独り言のように呟く。私の彼だった人がこの町の出身でね、いつも私に言っていたの。故郷の海がいかにきれいか。でもダメね。確かにきれいだけど、私はやっぱり、この景色が憎い。その横顔に声をかけるには、ぼくはたぶん、あまりにも若すぎた。やがて海岸沿いの道路を遠くからバスが来る。彼女はふいにしゃがむと、足元の小さな貝殻をぼくに渡す。三日間、ありがとね。この町に来て良かった。そうして彼女は去っていった。

うちのような旅館でも、シーズン中はそれなりに繁盛する。夕食の片づけにこき使われた後、ようやく自室で引っくり返っていると、妹がアイスを持ってきた。お疲れさま。そう言ってぼくの額にアイスを押しつける。アイスを奪い、寝そべったままため息をつく。どうしたの? 妹の問いを無視して逆に訊いてみる。なあ、お前はこの町が好きか? どうしたの急に。でもどうかな、うん、やっぱり好きかな。ぼくは子供っぽく舌打ちをする。ちぇっ。あーあ、街に行きてえなあ。妹は呆れたように笑う。まったく。男の子って、ほんとうに子供ね。ぼくは身を起こし、彼女の額を小突く。子供で悪かったな。あーあ、早く大人になりてえな。なぜか妹は優しく微笑み、急に恥ずかしくなったぼくは開け放った窓の外へと目を逸らす。真暗な海から、波が押し寄せる音が聴こえる。

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