何故かは分からないのですが、洗面所にカマドゥーマが出てきます。ここ三晩ほど連続して、毎回複数匹なので、どこかに経路ができてしまったのかもしれません。基本的にフォルムの明確な虫は何とか対応できるので、クァムァドゥームァが居ても、ぎょえっ、と思うくらいでぽいと外に放り出します。洗面所に戻ってくるとまた居るので、またぽいと外に放り出し、戻ってくるとまた居ます。シーシュポス! 夏は、いろいろ生き物が発生し、困ったものです。特にぼくの住んでいるところは近くにまだ自然が残っているため、多くの昆虫が巨大化しており、これもまた大変なことです。
けれども、写真に撮る対象としては昆虫は良いですね。あとはキノコ。この二つを撮っているときがいちばん幸せです。あれ、何か侘しいな・・・・・・。まあいいか。最近、誘われて山歩きに行ってきました。といっても、丘登山家で有名なぼくのことです。登山といったところで、せいぜい御岳山とかにふぅふぅ登って下りて温泉に入って出てネクターを飲んでうまーっ! とか叫んで、まあそんな程度のもの。それでも、この時期の山は、何だかいろいろなキノコがあり、それだけでも楽しいのです。
何のキノコかは分かりませんが(彼はキノコが好きだと言いながら、知識は何もないのです)、今回はとてもかわいらしいキノコを写真に収めることができました。
ちなみにその日は平日で、本来なら当然出社しなければなりません。ですがここ最近、自分の研究もすべて捨て置き、バグ取りと学会活動に時間を割いていたのですから、一日くらいは好きに動くことにしました。天地が滅びる訳でもなし、滅びて困る訳でもなし。アトラスでもないぼくにそこまでの責任はありません。というかそもそもこの男、責任感そのものがない。そのくせ論文では「他者に対する絶対的な責任が云々」などと書いて平然としている。いや良く見るといつでも何だかにやにやしている。
ともかく、電車に乗って出発地点の日向和田駅を目指します。朝のラッシュにぶつかるので、迷惑にならぬよう、なるべく荷物は少なく、普段の小さな肩掛け鞄で行くことにしました。一眼レフはマクロ一本に絞り、あとは着替えのTシャツと万能に使える手ぬぐい、雨具と食料、大量の水。あれ、けっこう大荷物だな・・・・・・。まあ出来の良いカメラバッグであればいろいろコンパクトに詰め込めるので、そんなものを抱えて通勤客に紛れて目的地に向かいます。丘登山家たる彼は普段から登山靴ですし、出社の際にも絶対にスーツなど着ないので、まるでこれ、普段の出勤時と同じ姿です。サラリーマンでもなく登山客でもない。いつも中途半端な姿で、この世の片隅を徘徊しています。
忙しい忙しいと言いつつ、最近はめずらしくがんばって公募に幾つか出したりもしています。別に結果はどうでも良いのですが(もちろん、安定した職は欲しいですけれども)、あのあれ、何て言いましたっけ、あ、履歴書ですね、それから研究業績書みたいのも、たまには書いておかないと、いざ急に必要なときに手間がかかることになってしまいます。だから、ときおり公募に出すついでにアップデートしておくと良いのですね。
で、そんな公募のうちのひとつの結果がそろそろ来るかな、というとき、一通のメールが届きました。タイトルを見ると「内定につきまして」。彼はね、正直「お、これは来たかな、来たよね、もうバグ対応塗れの人生から逃れたってことで良いよね!」と思いましたよ。ほんの0.5秒ほど。この0.5秒というのが、彼がいまだにこの社会に対して抱いている甘い認識の程度を示している。でもすぐに「そんな訳ないだろ」と冷静に考えなおす。それでもなお期待にぶるぶる震える手でメールを開く。すると「クラウドリーフ先生、以前は就活の相談に乗っていただきありがとうございました。この度ようやく内定を得ることができ・・・・・・」と書いてある。「ウエーへへへ!」と奇声を発して、隣の上司に輝くような笑みを向けます。ぼくの奇癖に慣れた上司は落ち着き払って「クラウドリーフくん、このバグも対応しておいてね」と新しいリストを送ってよこします。「ウエーへへへ!」
この三連休は、一日は研究会に出て潰れ、一日は所属している学会のオンラインジャーナルの校正で潰れ、一日は来週ある研究会用の原稿作成で潰れました。あとは洗面所に居るクゥムゥドゥームゥを外に放したくらいでしょうか。山に登ってキノコを撮っているときがいちばん幸せな人生でした。そんなことを呟きつつ、また明日から終わりの見えないバグ取りに励もうと思います。