ランドドッグ&ラヴ&ピース

いろいろと限界に達した。達したといいつつ達していないクラウドリーフさんの生活だが、さすがにもう限界だといっても良いだろう。というわけで、彼女とふたりで、歩け歩け遊びをした。歩け歩け遊びとは、とにかく歩く遊びである。普段からナショジのリュックに登山靴で動き回り、丘サーファーならぬ丘登山家と揶揄されるクラウドリーフさんだが、何しろ坂道の多い土地で生まれて死んだので、多少のアップダウンならものともせずにどこまでも歩いていく。

そんなこんなで、とある駅で待ち合わせをして、ふたりで歩き始めた。目的地は生田のDOMDOM。昔々のその昔、まだぼくらが最初の大学生だったころ、大学帰りに延々DOMDOMで時間を潰していた。飲み放題のコーヒー。閉店前なのに入口に設置されるバリケード。とにかくチープなバーガーの味。延々繰り返されるDOMDOMソング。あらゆる音楽を即座に忘れていくぼくとは違い、彼女は街中で聴いた音楽がすぐ刷り込まれてしまう。一時期、何かというと「DOMDOM!」と歌っていた。そんなDOMDOMも最近めっきり見かけなくなってしまったが、彼女が生田にあるのを発見したので、そこに行ってみようということになった。

あいにくの雨の日だったけれど、散歩は楽しい。ずんずんずんずん、ぼくらは歩いた。昔から歩くのが好きだったぼくは、自宅の周辺数十キロを歩きとおしているので、この辺りも歩いたことがある。とはいえそれは既に数十年昔のことだから、地形はともかく、街の景色はだいぶ変わっている。それでもふとした小道や古い鉄塔などを見ると、その瞬間、何十年前に一人で歩き、それを見たときの記憶がよみがえったりする。それはとても楽しいことだ。

だいぶずぶぬれになりつつ、DOMDOMに到着する。ぼくらが記憶しているそれとは異なり、だいぶ高級路線に走り、健康にも気を使っています的なアピールをしている。こんなんDOMDOMじゃないやい! と泣きながらバーガーを食べる。まあ、おいしかったです。でもこんなんDOMDOMじゃないやい!

けれども、そんな、記憶と現在のギャップもまた、楽しいことだ。変わらなかったとしても変わったとしても、とにかく、比較をできるというだけの長い時間を、これは何もふたりだから、ということではなく、自分の頭だけでも良い、そういった時間を感じ取ることができるのは、それだけで楽しい。

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そのあと、電車に乗ってよみうりランドに行った。今回の目的としてDOMDOMだけではつまらないので、周囲に何かないかと探していたとき、よみうりランドを発見したのだ。そもそも遊園地というものにあまり縁がない人生を過ごしてきたが、何か直感的に、これは行かねば! という神の意志を感じた。こういうことを真顔でいうから友人がいない。などと思いつつ、現代の預言者は鈍行電車とバスを乗り継いで、雨のなかをのたのたよみうりランドに行った。偶然、ワンデイパス4,000円を3,500円にするクーポン券もあった。

バスを降りると、当然というべきか、ほとんど人気がない。当たり前だ。平日の昼間、しかも雨がかなり降っているなか、いったい誰がよみうりランドに行くというのか。しかしそれがオーディナリーピープルの浅はかさ。通はこういう日こそよみうりランドに行くのです。いや知らないけど。

ランドドッグ

ランド内にはたくさんのランドドッグが居ます。これが可愛い! もう耐えられない! あはあっ! などと、雨に濡れ不審者感丸出しの中年男が興奮しています。自分のことながら、ちょっとどうかと思うけれど、しかしランドドッグは可愛い。ネットで検索すると「キモかわいい」とか「気持ち悪い」とかいう評判だけれど、そういうことを書くひとは地獄へ堕ちろとクラウドリーフさんは思います。よみうりランドとか、もう名前を変えた方が良い。ランドドッグランドとかにして、ランドドッグを全面に押し出すべきです。ランドドッグについては http://www.yomiuriland.com/land_dog/ ここから学ぶが良い(偉そう)。

雨はまだばらばら降っています。GORE-TEXの登山靴以外はすべてびちょびちょ。でもどうせあれでしょ、雨とか降っていても、千葉にある東京何とかランドとか、すごい混んでいるんですよね。哀れですね、愚かですね、滑稽ですね。ランドドッグランドなら、雨の日なら貸し切り状態なのです。巨大な観覧車を貸し切る? もちろんできます。ジェットコースターの先頭に乗って、自分だけのために動かしてもらう? 当然です。そう、ランドドッグランドならね。

ぼくらは徹底的に堪能しました。平衡感覚に優れた彼女に比べ、途中からぼくは吐きそうになりながらでしたが、でも人生においてもっとも楽しかった日だといっても過言ではないでしょう。

メリーゴーラウンド

メリーゴーラウンドにも乗りました。観覧車もそうだけれど、こういうのに乗ったのって、生まれて初めてかもしれません。あとはジェットコースターにも乗りました。顔面にぶち当たる雨粒を無表情に受け続ける中年無職男性。ホラーか! と思いつつも、本人は楽しんでいる。眼鏡は取ったほうが良いと言われたので正直何も見えないけれど、でも楽しい。いやいま思い返してみると、たいして楽しくないな。やっぱりミラクルわんルームがおすすめ。ランドドッグが宇宙に行ったりブラックホールを避けたりしながら、最後仲間と地球に戻ってチュロスを食べるとか、何かそんな内容のアニメを観ながらぐらんぐらん揺れるアトラクション。とにかくランドドッグにしか興味がない。

といいつつ、ミルキーウェイ(だっけかな)という、ブランコに乗って、それが上昇してぐるぐる回るというやつ、これも良かったです。もう、雨に打たれて視界はけぶっているし、顔は痛いし、吐き気はするし、でも、いかにも安っぽい、寂しい音楽を聴きながらぐるぐるぐるぐる回っていると、何だかもう自分が死んでいるような、死後の世界の無時間性を静止しつつも漂っているような、そんな気持ちになりました。

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帰り際、UFOキャッチャーのなかに居るランドドッグのぬいぐるみを確保しようと、受付のお姉さんに百円玉への両替をお願いしました(両替機がなかったため)。その枚数に異様な本気を感じ取ったのでしょう。お姉さんの笑顔が若干こわばっているのが分かります。しかしランドドッグのためです。UFOキャッチャーの前面の台に百円玉を積み上げ、鷹のような眼でランドドッグを捕まえにかかります。ずぶぬれで、髪もぼさぼさ、無表情で目つきの危ないひとが、「ランドドッグ、ランドドッグ……」とぶつぶつ呟きながらキャッチャーを操作する。彼は人生を賭けている。

しかしぜんぜん捕まえられない。そんなぼくを憐れんでくれたのでしょうか。先ほどのお姉さんが、なんとランドドッグを連れてきてくれました。きょうは雨の日で、お客さんもまったく居なかったので、ランドドッグは園内には居なかったのです。ですので会ってツーショットを取るのは諦めていたのですが、何とここで会うことができた。ちゃんと雨具を着ている。ぼく+ランドドッグ、彼女+ランドドッグ、彼女+ランドドッグ+ぼく、ランドドッグ単独、と、きゃっきゃうふふと喜びながら、写真を撮りまくりました。ちなみにぼくは写真に撮られるのがほんとうに嫌で苦手な人間で、しかも写真に写っている自分を見るとほんとうにがっくりするぐらい(もとが良いわけではないのですがそれ以上に)酷い写りようでがっくりするのですが、今回のランドドッグとのツーショットは、とても良い表情で写っていました。自分の葬式ではその写真を使おうと思います。

生きているランドドッグ

UFOキャッチャーはダメでしたが、その代わり、ランドドッグに名刺をもらいました。やったね! クラウドリーフさんは仕事で得た名刺をすべて捨て、名刺入れにランドドッグの名刺だけを入れた。社会不適応者。

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あとは、お土産屋さんで、彼女と自分の誕生日が書いてあるストラップを買いました。考えてみればストラップをつけるような何かは持っていないのだけれど、まあ良いでしょう。

ストラップ

また、平日の雨の日に行ってみようと思います。

 

 

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