ハードワイヤード・シングルタスクマン

防災用品を充実させようとamazonで諸々注文し、時間指定をして家で待っていた。きょうは彼女が出かけているので、ぼくひとり。こういうとき、自分の性格的な問題が如実に現れる。ニョジツ。「荷物を待つ」というタスク以外、何もできなくなってしまう。暖かいパーカーを洗濯してしまったので、厚めのTシャツを着たまま、ジーンズに裸足で体育座りをして配達の車がくるエンジン音をひたすら待つ。徐々に窓の外が暗くなり、指定の時刻を過ぎてもまだ来ない。これはどうやらおかしいぞと思い、PCを立ち上げて注文メールを確認してみたら、送り先を実家にしていた。届くはずがない。もうすっかり夜で、身体は冷え切っている。

この休日はようやく体調も上向いてきて、珍しくふたりで、庭の畑で働いた。彼女に指定された領域を掘り起こし、頑丈に根を張った草と、隠れた石を取り除く。虫も土も苦手な農学博士とはいえ、冬になればぼくが最も苦手な生き物もどこかへ行ってしまうので、怖さも和らぐ。とはいえ、生き物がまったく居なくなるはずもなく、耕すたびにコガネムシの幼虫が掘り出される。畑仕事的には害虫なのだろうが、それはそれ、これはこれ。よそはよそ、うちはうちでしょ! と思いつつ、彼女に渡してもらった空の鉢に、発掘された幼虫どもを土と一緒に放り込んでいく。安楽な住処を追われた虫たちは慌てて再び鉢のなかの土に潜り込んでいく。放っておけばいつまでも幼虫を探し、小石を探し、草の根を断ち切って土を耕している。それはそれで、至福の時間だ。

本来であれば野菜を植え、やがて収穫するのが目的だ。だけれど、これだけわんさか幼虫が掘り起こされると、何やらこれこそが収穫だ! みたいな気持ちになってくる。幼虫をある程度捕獲すると、彼女が庭の隅に作った専用の場所に放り込む。そこは土も柔らかく、以前に彼女が放り込んだ連中がぬくぬくと巨大化しているのを、彼女が見せてくれる。とんでもなく巨大化していて、これ、やっぱり収穫なのかな、と思う。その後、本来の目的であった大根の種を蒔き、水をやった。

あと、少し前に届いたXPlotterをようやく使ってみた。ハードの組み立て精度はいまひとつなところもあったけれど、十分に遊べる。提供されているPainterという専用ソフトは、β版だけあってまだまだ使えるといえるレベルではない。でも、コードがあって、コードの通りに動かせるのなら、それで十分だ。いまは自分の論文や行動記録を適当な変換ロジックでG-codeにするプログラムを作ろうと思っている。Plotterのアームが騒々しく動くさまをずっと眺めていると、心が限りなく落ち着いていく。その間は何も作業をしないで、プログレスバーがじみじみと伸びていくのを無心に追っている。

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カーテンを閉め、立ち上がったついでに、以前買ったムーミン印のブルーベリーコーヒーを淹れる。途轍もなくまずく、冷凍庫に封印されていたものだ。まあ、美味しいまずいは好みの問題だろう。ぼくには合わなかったけれど、常に自罰的傾向が強いぼくにとって、まずいコーヒーを飲むというのもまた、何やら心安らぐ時間ではある。一滴一滴コーヒーが抽出され、ブルーベリーとコーヒーの混じった異様な香りが立ち込めるなか、ひたすらぼんやり水滴が描く波紋を眺めている。

極めて単純なFIFOのスタック構造。簡単にオーバーフローする。それでもぼくが精神的に安定したまま暮らしているのは、溢れたのなら溢れろ糞が、と思い極めているからだ。誰も、できること以上のことはできない。できること以上のことをできないからといって壊れる何かがあるのなら、それは壊れるべくして壊れたものだ。人間関係さえも。それはそれでかまわない。ぼくは変われないけれど、その代り、無理な要求によってぼく自身が壊れることだけはない。無能な、屑野郎だけれど、それだけは誰かに対して保証できる。それはきっと、自分で思っているよりも凄いことだと、最近思うようになった。

彼女から、そろそろ駅につきそうだよとメールが届く。駅まで迎えに行くついでに買い物でもしようかと、財布をジーンズのポケットに突っ込む。身体中が冷え切っていて指も動かず、暖房を入れていなかったことに、ふと気づく。